失そうした、鈴木には多額の借金があった。ずいぶん前から、ギャンブルにのめりこみカードローンにまで手をだしていた。そこに、不幸にも、妻が体を壊し、入院することになったのだ。そして今、追い打ちをかけるように、ホテルのリストラが始まったらしい。その事を、後輩の竜馬から聞く事になった。この不景気のせいで、宿泊客数が増えずに、仕方なく従業員を減らす事になったのだと噂が流れている。鈴木はその候補にも名前があがっていた。竜馬が「アキ先輩、今、ホテルは大変な事になっているんです。中堅従業員の中から、数名、リストラするらしいです。」アキはショックを受ける。自分がホテルを退職して、まだ、日が浅いのに、色々な事が起こりすぎる。竜馬が「ここからが、重要です。」ささやきながら伝える。竜馬からの情報の中で、一番大切な部分が分かってくる。竜馬は、長身をかがめて「アキ先輩、実は、鈴木さんが行方不明になる数日前に、ホテルのある客室にメモ用紙が残されていたと、若い男性従業員に聞きました。その謎の走り書きを見つけた従業員が不思議に思い、事務所に持ち帰ったそうです。その時、たまたま、事務所で休憩していた上司の鈴木さんにメモを渡し、報告をしたようです。メモの内容は、ある代議士の秘書からのものだったらしくて、脅迫文と思われる箇所がいくつか文章に残されていたのです。秘書が就かえている代議士の家族に関する事柄です。怖いのですが、家族の闇の過去を公開するとの内容だったらしいのです。」後で分かった事なのだが、その客室は代議士の近藤正夫が宿泊していた部屋だった。近藤はまだ若い代議士だ。40才代なかばの元気盛りの人気のある議員だと、周りでは良い噂ばかりしか聞かない人物だった。この年齢で代議士になっていても、確かな人望もあり、さまざまな事への配慮、正しい決断をすることなどの有能ぶりが人気の要因だった。竜馬の推理は、過酷ではあるが、ありえない事でもない。「アキ先輩、これは推測ですが、その代議士を鈴木さんも脅迫していたら、どうなりますか?」アキと二人で、最悪の場合の事を想像して、身震いする。金に困り、欲をだした鈴木は、このメモの事で、代議士を自ら、脅迫し、お金を要求していたのではないか?次回に続く