竜馬の気持ちなどお構いなしで、アキはすでに決断していた。二人は、建物の玄関からは見えにくい短い垣根のある場所を見つけ座り込んだ。アキは強い口調で 「竜馬、少し長期戦になるからね!覚悟しといてよ。」 それからすぐに 「なるだけ早くに、動き出せばいいんやけど~。」 アキの希望が思わず口から出てしまった。そして、自分に言い聞かせるように「あ、イカン、イカン。ここが正念場やけん。これが最後の手段やけんね。もう後がないんやけん!」 まるで自分に呪文でもかけているようなアキの様子が怖いくらいだった。竜馬は我慢できず、今にも泣きそうな顔で 「アキ先輩、師匠に知らせておいた方がいいんじゃないですか?」そして又、祈るように訴えた。「何かあったら、どうするんですか?危険ですよアキ先輩。今、僕は混乱しています。」 アキは 「それはマズイんじゃないかな。師匠のことだから、知らせたら賛成するわけないじゃないよ!すぐ帰るようにいわれて、ひどく怒られてしまうよ。」 何度かそんなやりとりをしていた時に、アキと竜馬の前を一台の車が静かに通り過ぎていった。 アキはさすがだ。すぐに気づいた。「ア、アレあの車に乗っている男は近藤代議士じゃない?あの秘書が運転しているよね!」大きな声で叫び、横で冴えない顔色の竜馬の腕を引っぱって「竜馬、まずいよ!早く追わないと見うしなっちゃうよ。」二人は慌てふためいて大通りに走り出た。運よく通りかかったタクシーを今度は必死で止めることができたのだった。 「運転手さん、申し訳ないのですが、あの車の後を追っかけて下さい。くれぐれも見失わないようにお願いします。」 タクシーの運転手は 「はい。お客さん、承知しました。警察の方ですか?」 アキは言葉を短く 「いいえ違います。」 運転手は興味ありげにバックミラーから後部座席を覗きながら 「え~。それじゃ、今、流行りの探偵さんですか?」 又、アキは答えたくないという様子で 「それも違います。」 タクシーの運転手はもうそれ以上は聞かなくなった。 次回に続く。